疼痛緩和ケア・薬物・ブロック・鎮痛

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疼痛緩和ケア



     
§1 疼痛緩和ケア


     悪性腫瘍は激しい痛み疼痛に襲われる事が多く、耐え難い辛い痛みは大きな不安をも伴うものです。殊更夜間の

     疼痛に襲われるのではないかor襲われた際の不安から、安らかな睡眠とはほど遠く、精神的な辛さもはかり知れ

     ない大きさとなります。疼痛は絶望感を増大させます。 疼痛緩和ケアの果たす役割は絶大なのです。痛みをコン

     トロールできる事でそれにまつわる環境を含めて、その効果、安らぎはQOLを大きく向上させます。疼痛緩和ケア

     にたいする 従来の考え方には 多くの誤解もありました。 モルヒネなどのオピオイド鎮痛薬の 医療目的の使用が、

     薬物乱用の問題を助長する、薬物依存症になる事により、命が短縮するなどがそれである。

     欧米では既に過去四半世紀に亘り、オピオイド鎮痛薬が使用されてきた実績があるが、医療用モルヒネあるいは

     その他のオピオイド鎮痛薬の痛みに対する長期使用でも精神的依存の発生は皆無に等しく、何より患者さんのQ

     OLの向上に大きく貢献している事は確認されている。痛みを抑えるためにも、患者さんは医療関係者にその痛み

     の状況を伝える必要があります。身体のどこが、どの程度の痛みの強さで(10段階でどのあたりか)、どんな状況

     の時に起きるのか、痛みの持続時間や、どんな痛みの種類なのか(鈍痛、キリキリ、チクチク、えぐられる様、熱感

     を伴うのか、締め付けられる様な、重いなど)を、伝えてください。それにより医療関係者は、その痛みの種類に応じ

     た治療法を決定できます。




     
* 2008/10、28〜11、01の癌学会でも緩和療法に取り組む医師がまだ少ないことが指摘されています。癌は

     早期から切れ目無く痛みの緩和に努めることが癌対策基本法に掲げられるなか、 この問題はいまだに取り上げ

     られております。江口研二帝大教授(内科)も「在宅緩和療法は十分に行われていない」ということを指摘されてお

     られることも付記しておきたいと思います。


     
* 深刻な人材不足;癌対策基本法で整備が進む 全国375箇所(2009、04現在)の癌診療連携拠点病院でも、

     緩和ケアに関する人材不足が深刻な状況と報告されております。 人材不足の当該医療機関では、当然適切な

     緩和ケアの提供が 受けられないという事を意味します。 中には何のトレーニングを受けていない医師らが突然、

     緩和ケア医を唱えるケースさえあるといいます。現在ケアチームでトレーニング中の医師歴7年目のある医師も、

     「緩和ケアを系統だてて学んだことはなかった。患者さんの今の時間を充実させるサポートに限界を作ってはな

     らない事が良く分かった」 と述懐しております。 (この様に医療機関にも、適切なカリキュラムを組み込んで、緩

     和ケアに取り組んでいる組織もあります。) 世界保健機構(WHO)は 癌の痛みは治療できることを宣言し『患者

     には痛みのコントロールのため十分な鎮痛薬を求める権利があり、医師には投与する義務がある』としています。

     疼痛緩和ケアは、 癌の入院治療に区切りが付いた患者さんが、自宅に戻ることにより在宅での緩和ケアの必要

     になるケースもあります。適切な疼痛緩和ケアを受けられる事は、在宅医療では、痛みをとるだけではなく、家族

     との楽しい時を過ごせる事、生きることを支える事に繋がります。






     
§2 部位による痛み


     
/腫瘍や周囲の組織から疼痛物質が放出されますので強い痛みを伴います。治療には反応性に乏しく、骨折も

     時に伴うために、辛いものがあります。




     
* 放射性薬剤;骨に腫瘍が転移して生じる痛みを、 放射性薬剤(ストロンチウム89を含む)を注射して、放出され

     る放射線の作用を利用するもの。抗癌剤との併用や、副作用に十分な注意が必要であるが、他の方法で痛みを

     抑えられない場合に有用とされる。骨転移は癌細胞の増殖により、周りの神経に触れたり、癌細胞自体が刺激性

     の物質を出して、痛みを増強する。(骨盤・脊椎の転移に多く見られる)痛みのために、不眠、歩行・座位困難など

     から食欲減退、気分の落ち込みなどを招く。 ストロンチウム89が患部で放出するβ線が 癌細胞の活動を抑えて、

     刺激性の物質も減らし、疼痛を緩和すると考えられております。 癌が転移した骨では、カルシウムの吸収が活発

     であるが、ストロンチウム89はカルシウムと同じ様に、 骨に多く集まり、永く留まる。 効果は3〜6ヶ月程度で、注

     射後は、骨に集まらなかったストロンチウム89は、排尿されます。それまでは、尿や血液中に残るため、家族、介

     護者、患者の衣類、シーツ類などは、 取り扱いに厳重な注意を要する。 保健も適用できる。副作用の主なものは、

     骨髄抑制。そのため、治療の前に血液の機能が一定以上、確保されているかを確認し、治療後も定期的な検査が

     必要になります。 (骨髄抑制は、抗癌剤治療や放射線治療でも起きる事があります。そのため、併用の治療の場

     合に、十分な注意が必要になります。場合により、癌自体に対する治療が不可能になります。)



     
* タクティールケア;癌や認知症の緩和ケアに、スウェーデンで生まれたタクティールケアがあります。タクティー

     ルケアとはラテン語のタクティリス(触れる)に由来するもので、手で10分間程度「押す」のではなく「柔らかく触れ

     る」事で症状を緩和する手法です。 「癒されながら相互に共感や絆が生まれます。終末期医療では、患者さんの

     自己実現の手段にもなる」とされ、スウェーデンの研究でも、タクティールケア群は施術後に鎮静剤の量が少しず

     つ低下し、ノルアドレナリン(興奮を促す)の血中濃度も低下する事を突き止めています。 覚醒の度合いが上がり、

     血圧、心拍数は下がる傾向も確認され、 「安定、緩和の作用が有る。ストレスの感度を下げる周辺症状の軽減に

     効果が有るのではないか」とし、 「医療や福祉の分野、子育て中の人や、高齢者の介護をする家族にも応用でき

     る」と紹介しております。 タクティールケアは手の場合、@バスタオルで両手を包むA施術する手だけオイルを外

     すBオイルを全体に伸ばし、相手の手を柔らかくなでながら、オイルをなじませ進めて行くC手の甲や指と指の間、

     各指、手の平を滑るように触れて行くD片手ずつ行い合計20分程度行う。 「◎膝と膝が触れ合う空間の中でお互

     いに相手を大切にしようという感情が呼び起こされる。」と紹介されております。







     
神経/浮腫や周囲の組織による神経の圧迫などから痛みが起きたり、知覚神経がダイレクトに障害されるなどして

     痛みを知覚する。その結果障害された神経支配領域の痛みや放散痛を伴い、時に運動障害をも伴う。


     
血管/血流障害を起こしてしまうと浮腫や組織の虚血による痛みでその痛みの特徴はは神経支配領域に関係なく

     痛む。持続的、灼熱的な痛みで壊死や潰瘍を伴う事もある。


     
内臓/一端痛みが起きるとその痛みの範囲は広く原因臓器の特定が難しいが、それは内臓の平滑筋の収縮による

     痛みによるもので、場合により関連痛として関係のない部位が痛む事も多い。






     
§3 WHO方式の癌性疼痛の段階式除痛法


第一段階
対象 中程度までの疼痛
主薬剤 非ステロイド性抗炎症薬
補助薬剤 その他の薬剤
第二段階
対象 第一段階の方法で充分な除痛が得られない場合。中程度以上の疼痛
主薬剤 麻薬性鎮痛薬(リン酸コデイン)
補助薬剤 非ステロイド性抗炎症薬、その他の薬剤
第三段階
対象 第二段階の方法で充分な除痛が得られない場合。強い疼痛
主薬剤 麻薬性鎮痛薬(モルヒネ、塩酸ブプレノルフィンなど)
補助薬剤 非ステロイド性抗炎症薬、その他の薬剤







     §4 鎮痛薬の種類


     §4−1 麻薬を除く鎮痛薬


     §4−1−1 非ステロイド性抗炎症薬(NSAID) (NSAID表も御参考にご覧下さい

     癌性疼痛の段階式除痛法(WHO方式)では三段階除痛方式となっておりますが、投与が推奨されている薬剤で

     第一段階(軽度〜中等度の痛み)では主薬剤として、第二、第三段階の中等度以上の痛みでは補助薬剤として

     用いられます。非ステロイド性抗炎症薬には一般的に副作用があります。そのため腸溶性製剤や徐放剤、経皮

     吸収剤などが用いられております。ターゲット療法は静脈内に投与した薬物が炎症部位に集中し鎮痛効果を増強

     させるものでリポ製剤(脂肪で薬物を包む)が使用されております。






     
§4−1−2 塩酸ケタミン

     少量でも鎮痛効果があることが分かり、本来は解離性麻酔薬として注射薬で用いられてきたものですが、不快な

     覚醒反応も起こしにくく、熱傷の創処理に使われていました。それが慢性疼痛に関係するNMDA受容体に拮抗

     することが分かってから疼痛管理に積極的に用いられております。薬物感受性には個人差が有りますが硬膜外、

     くも膜下にも使用されます。呼吸抑制や不快な夢、唾液分泌が見られます。






     
§4−1−3 抗不安薬

     慢性の痛みには鎮痛薬のみでなく抗不安薬や抗鬱剤、抗癲癇薬などを併用すると効果的で、これは痛みが自律

     神経系反応や感情などが絡み合って起きるのが一般的だからです。これらの薬は一般的に眠気、ふらつき、めま

     い、脱力感、倦怠感を認め、他の鎮痛薬との併用は特に強く症状が出ます。






     
§4−1−4 抗鬱剤

     痛みがあると抑鬱状態になりやすく、これが更に痛みを悪化させる悪循環を招きます。慢性痛の場合などは特に

     抗鬱剤が効果的である事が知られております。経口投与では効果の発現には1週間以上を必要としますので、

     急ぎを要する場合には注射薬での対応になります。副作用として眠気、全身倦怠感、抗コリン作用(口渇、便秘、

     排尿障害など)、起立性低血圧、緑内障の増悪、肝障害、発疹、徐脈、譫妄などがあります。疼痛治療の場合は

     副作用が現れるほど使用しなければ充分な効果が得られない事が多いので注意が必要になります。






     
§4−1−5 副腎皮質ホルモン

     疼痛管理には抗炎症作用が主体となります。骨に転移して骨周囲の炎症が原因の痛みには有効な事が多い。

     副作用は感染の増悪・誘発、高血糖、消化性潰瘍の出血などがあるため投与後には注意が必要になります。




 
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§4−1−6 カプサイシン

     帯状疱疹後神経痛などにクリームが使用されます。痛みの伝達物質のP物質の放出を抑制するといわれ、カラシ

     成分独特のヒリヒリ感が使用部位に感じられます。






     
§4−1−7 漢方薬

     痛みだけに注目せずに全身に着目した観点からの処方をするもので痛み以外にも様々な愁訴にも有効と考えら

     れております。ホメオスタシスの乱れなどの是正などからも使用されます。






     
§4−2 麻薬性鎮痛薬


     日本における麻薬のイメージは危険というものでしたが、麻薬や適切に使用すれば、安全であるという事が分かり、

     疼痛管理に無くてはならないものとなった。生体内には麻薬(オピオイド)受容体があり、内因性オピオイドペプチド

     の分離・同定で安全性が確率された。オピオイド受容体にはμ(ミュー)、δ(デルタ)、κ(カッパ)、σ(シグマ)、

     ε(イプシロン)があり、そのうちでμ、δ、κが鎮痛作用に関与している事がわかった。麻薬の全身投与は中枢

     神経系に作用するが、中でも脊髄レベルにおいての疼痛情報をブロックし、脳幹部に作用して脊髄への下行性

     抑制系経路を活性化し、大脳辺縁系に作用して痛みに対する感受性を低下させる強力な鎮静作用を有する。然し

     ながら、麻薬はよく知られる、副作用もあります。多幸感、不快感、痛痒感、薬物耐性、体及び精神的依存性、

     呼吸抑制、尿閉、悪心・嘔吐、便秘などで使用にあたり注意が求められる。
 





     
§4−2−1 モルヒネ


     最も標準的な鎮痛薬で硫酸モルヒネ徐放錠は長期間一定の血中レベルを保つ事ができる。概ね2回/日の服用

     で除痛を得られる。 人により血中への移行度や感受性に差が有る。モルヒネは頓用方式でなく一日の一定時間

     に服用し、血中濃度を保つようにする。投与は痛みの強さで決定し、耐性、依存性は数週から数ヶ月単位で出現

     する事になる。他の薬物に比べ投与量と鎮痛効果は、頭打ちの事は無く場合により、1000mg/日以上服用する

     ケースもある。


     モルヒネは強力な鎮痛薬です。 しかし、投与の継続や、増量が困難になる理由は副作用(悪心、便秘)にありま

     す。更にモルヒネは、多くの患者さんでは、長期にわたりその必要量が一定とされるが、実際には腫瘍の進展や

     転移により、痛みが強まり、使用量は増加する事が多いのが実情です。禁断症状(血圧上昇、頻脈、興奮、幻覚

     など)は試用期間が短くても出現します。禁断症状は、神経ブロックなどで除痛されたためにモルヒネを中止した

     り、麻薬拮抗の塩酸ナロキソンや拮抗性鎮痛薬の塩酸ペンタゾシンを大量投与した場合でも起こり得るため注意

     を要する。

     (モルヒネの経口投与が困難となるのはなぜか?も御参考にご覧下さい。)






     
§4−2−2 塩酸ペチジン


     合成麻薬であり、モルヒネの1/8の鎮痛効果がある。持続時間は筋注、皮下注で2〜3時間持続する。麻薬扱い

     とされない薬(塩酸ブプレノルフィン塩酸ペンタゾシン酒石酸ブトルファノールなど)






     
§4−2−3 クエン酸フェンタニル


     麻酔薬として使われる事が多いが脂溶性が強く脊髄への移行性が強いため、疼痛管理では硬膜外に0.02〜

     0.075r/時で持続投与される。モルヒネの80〜100倍の鎮痛作用がある。呼吸抑制作用が強い。皮膚や

     粘膜からの吸収性も強い。






     
§4−2−4 塩酸ブプレノルフィン


     モルヒネの20〜30倍(注射薬)、腸内直接投与では50〜60倍の鎮痛効果を持ち、持続時間も3〜10時間

     の効果がある。硬膜外鎮痛には0.01r/時程度の投与になる。呼吸抑制作用は出難いとされる。






     
§4−2−5 塩酸ペンタゾシン


     モルヒネの1/5程度の鎮痛作用を持ち持続時間は3〜4時間とされる。術後痛は比較的短期間使用する疼痛治療

     に用いられる。長期投与の場合精神症状、禁断症状が出るため、安易な投与は避けなければならない。モルヒネ

     とは拮抗作用があり、モルヒネ投与中の患者に使用すると、鎮痛効果減弱、禁断症状を示す事もある。






     
§4−2−6 酒石酸ブトルファノール


     塩酸ペンタゾシンと類似しているがモルヒネの1.4倍〜20倍の鎮痛効果を示し副作用は少ない(モルヒネに

     比し悪心・嘔吐、便秘、尿閉などの頻度は低い)。モルヒネに対する拮抗作用はある。(塩酸ナロキソンとほぼ同等)


     
§4−2−7 アヘンアルカロイド/副交感神経社団薬配合薬

     消化管攣縮作用があるため、アトロピンやスコポラミンとの併用薬が使用される。




     
§5 麻薬拮抗薬


     
§5−1 塩酸ナロキソン

     麻薬の加療投与による呼吸抑制、精神症状などに拮抗させる薬剤であるが、持続時間は30〜40分程度のため、

     長時間持続する麻薬に対しては、後で再び呼吸抑制などが発現してくるため、再投与が必要になる事もある。

     交感神経系を刺激し、頻脈、高血圧、肺水腫、不整脈を起こす事もあるので注意が必要です。








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§6 神経ブロック


     神経ブロックは、中枢神経系や末梢神経に局所麻酔薬や、神経破壊薬などを投与して、神経の伝達をブロックする

     事により痛みを遮断する薬剤です。モルヒネなどの麻薬系鎮痛薬は大部分の癌の患者さんの痛みを抑制できます

     が、10〜20%の患者さんには、鎮痛薬だけでは痛みを抑えられません。癌が神経を侵していたり、骨に癌が転移

     している、筋肉の引きつりにより痛むなどの場合には、その様なことがあります。神経性の疼痛は膵臓癌などでは

     しばしば認められます。この様なケースでは、モルヒネに加え、抗鬱剤や抗痙攣などの鎮痛補助薬を使用します。

     癌が神経を圧迫している時にはステロイド薬や放射線治療が疼痛緩和効果をもちます。薬で鎮痛効果が無い時に

     は、神経ブロックや脊髄鎮痛法などが選択されます。神経ブロックは痛みの信号を局所麻酔薬で麻痺させたり、

     アルコールなどで破壊します。膵癌などの場合では、しばしば腹部神経に対する神経ブロックを行います。



     
§6−1 局所麻酔剤


     痛みの伝導をブロックする事により鎮痛効果をもとめる。塩酸リドカインや塩酸ブピバカインなどがあるが、

     濃度の高いほど麻酔作用は強まり、太い神経線維の遮断も可能。適切な濃度で目的にあった局所麻酔剤として

     使用する。少量でも血管に入れば意識低下、痙攣というような全身症状を起こすので注意が必要になる。






     
§6−2 神経破壊薬


     神経細胞の細胞膜を破壊して長時間(数ヶ月)の鎮痛効果をもたらす。エチルアルコール(無水エタノール)

     は最も強い神経破壊作用を示すが神経炎による痛みを起こす事もある。腹腔神経叢などの交換神経ブロックに

     使用される。






     
§6−3 麻薬性鎮痛剤

     オピオイド受容体(麻薬受容体)は脊髄にも存在します。モルヒネクエン酸フェンタニル塩酸ブプレノルフィン

     が硬膜外にもちいられている。硬膜外、くも膜下へのがん患者への投与の有効性は1979年に報告されている。






     
§7 各種ブロック例


     
§7−1 硬膜外ブロック

     脊髄を包む硬膜の外側に麻薬性鎮痛薬や局所麻酔薬を注入する。頸部より下の広い範囲の疼痛に適用される。

     硬膜外に入った薬液は一部は硬膜を通して、一部は神経根からくも膜下に入り、脊髄で鎮痛効果を発揮する。
刺入部の汚染は硬膜外膿瘍などを引き起こすため

にシャワーや入浴時には防水テープを利用する。

硬膜外カテーテルを留置する場合は、入院が原則

であるが、薬液リザーバーを皮下に埋め込む事に

より、通院も可能となる。局所麻酔薬は運動神経

に比べ、知覚神経をより抑える塩酸ブピバカイン

が使用されることが多い。麻薬性鎮痛薬も単独又

は局所麻酔薬と併用して投与される。予後の短い

癌性疼痛患者には神経破壊薬エチルアルコールを

使用することもある。
     
      -硬膜外ブロック模式図-





     
§7−2 くも膜下フェノールブロック


     くも膜下に直接神経破壊薬(フェノールグリセリン)を注入する事により知覚神経のブロックを行う。鎮痛効果

     は数ヶ月以上持続する。一部の運動神経にも薬液が広がる事が多く、腰部ではその影響を受け、運動や排尿、

     排便障害などが見られる事もあり、問題が有れば実施しない。薬液は効果が限局するようにグリセリンで増粘

     してあり、注入には時間がかかります。






     
§7−3 くも膜下ブロック


     くも膜下ブロックは硬膜外ブロックよりはるかに少ない量の薬液で、より強い鎮痛効果を得られるが、感染の

     危険性もあるために入院患者に限った投与になる。癌性疼痛の管理にはカテーテルをくも膜下に留置して使用する。

     経口モルヒネや他の投与法が難しい場合にのみ選択される。






     
§7−4 腹腔神経叢ブロック


     胃、十二指腸、膵、小腸、横行結腸は腹腔神経叢により痛みが伝達されるためこの神経叢にエチルアルコールを

     注入して痛みの伝達を阻害する。ブロックはx線透視下で、意識下で実施する。翌日歩行、帰宅も可能であり

     腹腔神経叢は永久的に遮断してもQOLに問題は無く、内臓腫瘍による痛みに効果的な方法である。






     
§7−5 星状神経節ブロック


     星状神経節は頸部の交感神経節で局所麻酔薬を注入する事によって顔面、上肢の痛みや血流障害を改善します。

     癌性疼痛の場合には他の鎮痛方法と併用する事が多い。






     
§7−6 三叉神経ブロック


     
三叉神経は顔面の知覚神経で、局所麻酔薬や神経破壊薬を用いて遮断する。三叉神経はその名の通り3つに

     分かれているがブロックの方法は夫々の神経枝をブロックするか、その根もとにある三叉神経節(ガッセル神経節)

     をブロックする方法がある。






     §7−7 経皮的コルドトミー


     第1〜2頸椎間より脊髄内に針を刺して外側脊髄視床路を高周波熱凝固にて除痛をするもので、予後の短い患者

     に実施する。施術直後の呼吸抑制や90日以降の神経再生に伴う異常疼痛など問題がある。



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§7−8 下垂体ブロック


     全身の疼痛治療に有効とされるが下垂体機能障害が確認されるため、あまり用いられなくなった。鼻腔から脳下

     垂体に達し神経破壊薬エチルアルコールを注入する。






     
§8 刺激による鎮痛法


     生体には痛みを抑制する経路、神経系が存在している事は古来より良く知られてきましたが、この経路を刺激

     して痛みを抑制する鎮痛法の事です。






     
§8−1 経皮的電気的神経刺激法


     末梢神経を経皮的に電気刺激し、痛みの抑制系を賦活させるのが経皮的電気的神経刺激法で、2枚の電極で疼痛

     部位を間に挟むような位置で神経分節に沿う様に貼り、刺激を与える。100Hz程度の高頻度刺激では、γアミノ

     酪酸(GABA)作動性の抑制介在ニューロンが、低頻度刺激では内因性オピオイドが鎮痛効果に働くと考え

     られております。






     
§8−2 低周波置針療法


     経穴の刺激は内因性オピオイドの産生や下行性疼痛抑制系を活性化し鎮痛効果が得られると考えられており、

     経穴刺激のためには、針の刺激が用いられ、そこに1〜10Hzの低周波電流を通し、刺激を与える。これは

     低周波置針療法と呼ばれておりまして、針の先端も円錐状で組織損傷、出血共に少ない。癌性疼痛患者は肩こり

     や腰痛などを訴求する事が多く、低周波置針療法はこれらの訴求にも効果的であると考えられます。






     
§8−3 レーザー治療


     
低出力レベルの半導体レーザーは局所の血流増加、発痛物質産生抑制、消炎、交感神経遮断などの作用があると

     され、その事が鎮痛に効果を与えるものと考えられております。皮膚の熱傷を起こす事がありますが、副作用は

     少ないのですが、鎮痛作用は弱いので癌性疼痛に対しては、補助的な治療法という位置付けになります。







     §9 非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)


強力な作用、速効性を期待する場合 座薬/ジクロフェナクナトリウムなど
ターゲット療法/フルルビプロフェンアキセチル
作用の持続を期待する場合 長時間作用約/アンピロキシカム、オキサプロジン、ピロキシカム
病変の広さ、部位による選択 体表近くで狭い範囲/フェルビナク
臓器障害により使い分ける 胃腸障害/座薬、プロドラッグ(ロキソプロフェンナトリウム)、経皮吸収薬、
腎機能障害/スリンダク、プロピオン酸、経皮吸収薬
肝機能障害/経皮吸収薬、座薬(プロドラッグ、インドメタシンは不可)
抗血小板作用を狙う場合 低投与量アスピリン
高齢者の場合 半減期の短いもの/プロピオン酸
妊婦の場合 なるべく使用しない;使用する場合は少量
ワーファリン、トルブタミド使用者 作用増強するため位置に治療の少ないもの(ピロキシカム、ジクロフェナクナトリウムなど)を使用








     
§10 癌性疼痛治療


     末期の患者さんの場合は特に、そのQOLを優先する治療目標になります。疼痛、不眠、歩行困難、食欲不振、

     排尿障害などの配慮を充分にされる、患者さんの尊厳を傷つけないような治療目標となるわけですね。患者さん

     は大きな不安や抑鬱状態、絶望感などに苛まれておられる事も多く、痛みがそれを更に増強させます。この悪循環

     のケアのための治療や心理面の配慮が欠かせません。癌性疼痛治療は対症療法で、疼痛部位や程度、治療による

     影響を考慮する除痛の組み合わせになります。そして、麻薬の使用方法に関しては、適切に使用されることに

     より、副作用の心配は問題にならず、段階的に使用してゆくことがWHOでも薦められている事は広く知られる

     ところです。痛みが強い場合は早期からの麻薬投与を開始し、投与量は増すほどにその効果がつよまります適切な

     投与法のもとでは90%近くの患者さんが除痛効果に満足しておられます。






    
 §11 癌疼痛治療ガイドライン

1 可能な限り経口投与する(by the mouth)
  QOLの面から簡便な方法を薦めているが、不可能な場合は他の方式を選択する。
2 時刻を決めて投与する(by the clock)
  効果が切れる前に投与することが大切であり、痛みが出てから鎮痛薬を投与する頓用方式は避ける
3 痛みの強さに応じた効力の鎮痛薬を選ぶ(by the ladder)
  段階式疼痛治療法に則って治療を行う。適応があれば予後の長短に関わらず、躊躇せずにモルヒネ  の使用に踏み切る
4 患者ごとに個別的な有効量を決定し投与する(by the individual)
  個人差を充分考慮し、24時間完全な無痛を得られるように調節する。
5 服用に際して細かい配慮を行う(with attention to detail)
  多彩な癌性疼痛を正しく評価し、充分な患者の理解を得て、副作用などの病態を早期に把握し、安  全に治療を行う。

     
* 日本緩和医療学会がEBM(evidence based medicine)に則ってわが国における標準的な癌疼痛治療ガイド
       ラインを作成









     * 
NMDA受容体/中枢神経系の神経受容体の一種で虚血性神経細胞壊死など種々の役割が知られております。


     * 
塩酸ペンタゾシン/薬物依存性が問題になり薬剤使用は在庫数、使用記録などの管理記録が必要になった。


     * 
モルヒネの経口投与が困難となるのはなぜか?/@口腔、咽頭、喉頭の腫瘍や神経損傷による嚥下障害。

     A投与量が多すぎて錠剤を飲む事が困難。B早急に除痛が必要。C経口薬によって充分な除痛を得る事が出来ず、

     副作用により増量が困難。


     * 
オピオイド鎮痛薬/オピオイド受容体(中枢神経系や末梢神経系に存在する)に特異的に結合して薬理作用を

     現す薬。一部のオピオイドは法律により麻薬に指定されており、非オピオイドに比し数倍以上の鎮痛効果を示す。



     * 
脊髄鎮痛法/モルヒネなどの鎮痛薬や麻酔薬を、脊椎や骨盤から、脊髄に注入する方法で、持続的に注入する

     場合には、カテーテルを脊椎に留置して、継続投与します。



     * 
骨に癌が転移/放射線照射や、ビスホスホネート剤、非麻薬系の鎮痛薬が痛みを抑える効果を示します。


     * 
筋肉の引きつり/マッサージや患部を冷やす、温める、患者をリラックスさせるなどや、モルヒネの効果が

     得られないので、筋弛緩薬(ジアゼパム製剤が多い)を用います。







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